この記事の要点
- 厚生労働省調査で入職率16.4%、離職率15.4%と労働移動が近年活発化している
- 転職で賃金が増加した人はわずか37.2%で、減少・維持を合わせると約6割にのぼる
- リアルゲート事件では在職中の取締役による忠実義務違反が認定され、損害賠償が命じられた
- 人材紹介の平均手数料は1件約93万〜94万円で、市場規模は約7,821億円に拡大している
- 2025年4月施行の改正職業安定法で、手数料実績の開示とお祝い金禁止が義務化された
同僚を新しい会社に誘ったら、それだけで訴えられるのか——幹部社員の引き抜きを巡る不安の多くは、この一点に集約されます。結論から言えば、転職の勧誘そのものが直ちに違法になるわけではありません。日本国憲法第22条1項が保障する職業選択の自由により、労働者が自らの意思で転職先を選び、情報を受け取ることは原則として自由です。
違法と判断されるのは、在職中の取締役が忠実義務に反して計画的・組織的に部下を一斉に引き抜き、会社の事業基盤を揺るがすなど、「社会的相当性」を著しく逸脱した場合に限られます。この境界線を示した代表的な裁判例が、東京地方裁判所平成19年4月27日判決、いわゆる「リアルゲート事件」です。
本記事では、リアルゲート事件の判断枠組みを軸に、何が違法な引き抜きとなるのかを整理したうえで、こうしたトラブルの背景にある人材紹介ビジネスの収益構造と、厚生労働省の統計データが示す転職市場の実態を解説します。
転職で賃金は本当に上がるのか 入職率16.4%の実態

人材の流動化を数字で見ると、厚生労働省「令和5年雇用動向調査」では、入職率は16.4%(前年比1.2ポイント上昇)、離職率は15.4%(前年比0.4ポイント上昇)となっており、入職超過率は1.0ポイントです(出典:厚生労働省「令和5年雇用動向調査」)。就業形態別では、一般労働者の入職率は7.6%、離職率は6.5%で推移しています。
同じく厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」によれば、労働者の平均年齢は47.0歳、平均勤続年数は12.5年(男性13.8年、女性9.9年)となっており(出典:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」)、長期勤続を前提とした構造は依然として残っています。その一方で、転職によって賃金がどう変化したかを見ると、実態は単純な右肩上がりではありません。
| 転職後の賃金変化 | 割合 |
|---|---|
| 増加した | 37.2% |
| 減少した | 32.4% |
| 変わらない | 28.8% |
(出典:厚生労働省「令和5年雇用動向調査」)表の通り、転職によって賃金が「増加」した人は37.2%にとどまり、「減少」した人が32.4%、「変わらない」人が28.8%となっています。つまり、約6割の転職者は賃金が維持されるか、むしろ下がっているのが実態です。転職市場の広告では年収アップの事例が強調されがちですが、公的統計が示す実態はそれよりも慎重に受け止める必要があります。個々の結果は業種・職種・年齢やタイミングによって大きく異なる点にも注意が必要です。
リアルゲート事件とは 在職中の取締役による一斉引き抜き

幹部社員の引き抜きが違法と判断された代表例が、東京地方裁判所平成19年4月27日判決、通称「リアルゲート事件」です。本件は、原告会社(リアルゲート社)の取締役であった被告らが、在職中から密かに競合会社(エクスプラネット社)設立の計画を立て、自らの退職に際して社内の多数の部下・幹部社員を一斉に勧誘し、事業そのものを移動させた事案です。
原告会社は、被告取締役らの引き抜き行為および競業行為が、取締役の忠実義務(会社法第355条)違反および不法行為に該当するとして、損害賠償を求めて提訴しました。争点となったのは、①在職中の競合会社設立準備と部下の引き抜きが忠実義務違反にあたるか、②退職後の競業行為・社員引き抜きが自由競争の範囲を超えて違法となる条件は何か、③引き抜きの勧誘が「社会的相当性」を著しく逸脱しているか、の3点です。
東京地裁は、被告取締役らの行為を「計画的かつ極めて背信的」であり、「社会的相当性を著しく逸脱した違法な引き抜き行為」と判断し、損害賠償請求を認めました。取締役は在職中、会社に対して忠実義務および善管注意義務を負っており、自ら競合他社を設立し、または他社と密謀して相当数の社員を画策・勧誘して一斉退職させる行為は、会社の存立を脅かす背信行為として、忠実義務違反(不法行為および債務不履行)を構成するという論理です。
何が「社会的相当性」を欠く違法な引き抜きなのか

一般に、転職の勧誘や引き抜き行為自体が直ちに違法となるわけではありません。裁判所は、①勧誘の時期・方法(在職中から継続的・計画的に行われたか)、②用いた手段(社内チャットや業務上の立場を利用した不当な働きかけか)、③企業に与えた損害(特定部門の機能が麻痺・閉鎖に追い込まれたか)を総合的に勘案し、自由競争の範囲を超えた悪質な態様であるかどうかを判断します。
引き抜きや競業行為の違法性のラインは、行為者の地位や態様によって大きく異なります。次の表は、合法とされる範囲と、違法と判断される範囲の違いを整理したものです。
| 評価項目 | 合法(自由競争の範囲内) | 違法(社会的相当性の逸脱) |
|---|---|---|
| 対象者の地位 | 一般社員、または役職解任後の元社員 | 在職中の取締役・執行役員など忠実義務を負う者 |
| 勧誘の計画性・時期 | 個別の打診、退職後の個人的な連絡 | 在職中からの密謀、組織的・計画的な一斉引き抜き |
| 会社への影響 | 代替要員の確保が可能で事業継続可能 | 特定部門の全員離脱、事業部門の閉鎖・機能不全 |
| 情報・ノウハウ利用 | 労働者個人の経験・一般知識の活用 | 営業秘密や機密名簿の不正持ち出し・利用 |
(出典:東京地方裁判所平成19年4月27日判決ほか裁判例に基づく整理)
競業避止特約があれば防げるのか
元社員に対する「退職後の競業避止特約」は、憲法上の職業選択の自由との兼ね合いから、裁判所が限定的にしか有効性を認めない傾向にあります。もっとも、リアルゲート事件のように、特約の有無にかかわらず「在職中の忠実義務違反」や「自由競争を著しく逸脱した背信的態様」が存在する場合には、民法第709条の不法行為として損害賠償責任が追及されることになります。つまり、企業が引き抜き対策として競業避止特約のみに頼ることには限界があり、在職中のガバナンスや秘密情報管理の徹底が別途重要になります。
人材紹介ビジネスの収益構造 平均手数料93万円の内訳

幹部社員の引き抜きやヘッドハンティングが活発化する背景には、有料職業紹介事業の構造的な拡大があります。有料職業紹介事業の収益モデルは、採用が確定した時点で求人企業から徴収する完全成功報酬型が主流で、一般的な手数料率は採用された求職者の想定年収の15%〜35%程度とされています。幹部人材や専門職を対象とするヘッドハンティング(エグゼクティブ・サーチ)では、リテイナー(着手金)として100万円程度を徴収したうえで、成功報酬率を35%〜40%(消費税別)に設定する体系も一般化しています。
厚生労働省の「職業紹介事業報告書」の集計データによると、有料職業紹介事業の市場規模と平均手数料は次のように推移しています。
| 年度 | 手数料収入総額 | 対前年度比 | 常用就職1件あたり平均手数料 |
|---|---|---|---|
| 令和4年度(2022年度) | 約7,250億円 | +21.4% | 約94万円 |
| 令和5年度(2023年度) | 約7,821億円 | +7.9% | 約93万円 |
(出典:厚生労働省「職業紹介事業報告書」)市場全体で約7,800億円規模に達しており、1人の常用採用が成立するごとに平均して約93万〜94万円の手数料が人材紹介会社に支払われている計算になります。

上場人材企業の業績データからは、ビジネスモデルごとの利益率の違いも見えてきます。
| 企業・サービス | ビジネスモデル | 売上高 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|
| Visional(BizReach) | ダイレクト・ソーシング | 連結801.6億円/BizReach単体686.1億円 | 連結26.7%/BizReach単体41.4% |
| JAC Recruitment | 両面型エグゼクティブ人材紹介 | 連結460.89億円 | 約25.4% |
| パーソルホールディングス | 派遣中心の総合人材サービス | ― | 4.0%〜4.3% |
(出典:各社決算資料)企業と求職者を直接マッチングさせるプラットフォームモデルであるVisionalのBizReach事業は、人件費率を抑えられるため41.4%という高い利益率を示しています。JAC Recruitmentは高度人材に特化することで高単価の成功報酬を獲得するモデルです。対して、労働者派遣が主軸のパーソルホールディングスは、薄利多売のストック型ビジネスであるため営業利益率は4.0%〜4.3%程度にとどまっています。
職業安定法の改正で何が変わったか
求人メディアの多様化や紹介事業者による過度な囲い込みを防ぐため、厚生労働省は職業安定法の施行規則・指針の改正を段階的に進めています。
| 施行時期 | 主な改正内容 |
|---|---|
| 2022年10月 | 求人情報を正確・最新に保つ義務。特定募集情報等提供事業者の届出義務化 |
| 2024年4月 | 「従事すべき業務の変更範囲」「就業場所の変更範囲」等の労働条件明示事項を追加 |
| 2025年4月 | 平均手数料率等の実績開示を義務化。求職者への「お祝い金」提供を原則禁止 |
(出典:厚生労働省)また、職業安定法第32条の3第2項により、有料職業紹介事業者は原則として求職者から手数料を徴収してはならないとされています。手数料は求人企業側が負担する仕組みで、芸能家・モデルや年収700万円を超える経営管理者・科学技術者等の一部の特定職種を除き、求職者からの手数料徴収は実務上ほとんど行われていません。なお、港湾運送業務および建設業務については、職業紹介そのものが認められていません。
引き抜き・転職市場でよくある誤解

第一に、「転職すれば大半の人が年収アップする」という言説は統計的実態と異なります。前述の通り、賃金が増加した割合は37.2%にとどまり、約6割は維持または減少というのが実態です。
第二に、「引き抜き行為は一律に違法である」という理解も正確ではありません。違法と認定されるのは、リアルゲート事件のように、在職中の取締役としての忠実義務に違反し、会社を不当に害する密謀性や、社内データの不正持ち出しなど社会的相当性を逸脱した手段を用いた場合に限られます。一般社員による個別の転職の打診や情報提供は、原則として自由競争の範囲内です。
第三に、「人材紹介会社は求職者のために無料で親身に動いてくれる」という理解にも留意が必要です。職業安定法第32条の3により求職者側は無料ですが、紹介会社の直接のクライアントは求人企業であり、1件の成約で約93万〜94万円という高い手数料が発生する成功報酬モデルです。このため紹介会社には「早期に転職を成立させたい」という経済的インセンティブが働きやすく、2025年4月施行の手数料実績の開示義務などは、このインセンティブ構造の透明化を図るものといえます。
まとめ
幹部社員の引き抜きにおける違法性の境界線は、「転職を勧誘したかどうか」ではなく、「引き抜きを行った者の立場・義務」「計画性や密謀性の有無」「不当な手段の有無」「会社に及ぼした損害の範囲」を総合した「社会的相当性」の有無によって引かれます。リアルゲート事件は、在職中の取締役による組織的な一斉引き抜きが企業の存立を脅かした場合に、明確な不法行為責任が成立し得ることを示しました。
一方で、人材紹介ビジネスは1件あたり90万円を超える成功報酬構造に支えられて拡大しており、こうした市場の過熱に対応する形で、職業安定法は2022年、2024年、2025年と改正を重ね、労働条件明示の厳格化や手数料実績の開示、お祝い金の禁止などを進めています。
引き抜きや転職を検討する際は、感情論や誇大な広告だけに頼らず、判例が示す法的な境界線と、公的統計が示す市場の実態の両方を踏まえて判断することが大切です。個別の事情によって結論が変わりうる点にも留意し、具体的なトラブルについては弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
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よくある質問
社員を引き抜くこと自体は違法ですか?
転職の勧誘自体は職業選択の自由の範囲内で、直ちに違法にはなりません。ただし在職中の取締役が計画的・組織的に一斉引き抜きを行うなど、社会的相当性を著しく逸脱した場合は不法行為となり得ます。
人材紹介会社に登録すると求職者は手数料を払う必要がありますか?
職業安定法第32条の3により、原則として求職者からの手数料徴収は禁止されています。一部の特定職種を除き、手数料は採用する企業側が負担する仕組みです。
転職すれば年収は必ず上がりますか?
厚生労働省の調査では転職で賃金が増加した人は37.2%にとどまり、約6割は維持または減少しています。年収アップが保証されるものではない点に注意が必要です。
競業避止義務があれば元社員の引き抜きは防げますか?
退職後の競業避止特約は職業選択の自由との関係で限定的にしか有効性が認められない傾向があります。特約の有無にかかわらず、在職中の背信的な行為があれば責任を問われる可能性があります。
次にやること
業界の構造を理解したうえで、自分の条件が相場のどこにあるかを確認します。
- 賃金構造基本統計調査で、自分の職種・年齢・地域の水準を確認する
- 現職の労働条件通知書で、割増賃金や手当の計算根拠を確かめる
- 相場観は1社の提示額ではなく、複数の求人情報で確認する
参考にした情報源
うち官公庁・公的機関等の一次資料 14件。数値は各機関の公表時点のものです。
- 競業避止義務における引き抜きについて – 人事・労務・労働問題の弁護士相談(xn--alg-li9dki71toh.com)
- 他の社員の引き抜きをする元社員への対応 | 東大阪・八尾 中小企業の人事・労務相談(h-osaka-roudou.com)
- 転職者の離職理由と賃金の変動状況 ~厚生労働省「令和5年雇用動向調査」より(nagaoka-sharoushi.com)
- ― 令和7(2025)年上半期雇用動向調査結果の概況 ― – 厚生労働省(mhlw.go.jp)
- 日本の平均年収は?中央値や年齢別・男女別・職種別の平均年収も徹底解説! | 三菱UFJ銀行(bk.mufg.jp)
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- 令和5年「雇用動向調査」で明らかになった労働市場の流動性、入職率16.4%、離職率15.4%で浮き彫りに – 【公式】福岡の求人広告は株式会社パコラ(pacola.co.jp)
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本記事は公表資料をもとに作成した一般的な解説です。制度は改正され統計は更新されます。実際の手続き・判断にあたっては所管の官公庁および専門機関の最新情報をご確認ください。詳細は免責事項をご覧ください。
本記事は公的統計等の調査資料を根拠に、AIを利用して作成し、公開前に数値と表現の検査を行っています。作成手順は編集方針とAI生成コンテンツについてに公開しています。最終更新:2026年7月27日


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