この記事の要点
- 土地家屋調査士試験の合格率は例年10%前後で、合格者数は400〜500名程度に制限されています(出典:法務省)
- 厚生労働省の平均年収997万円は「法務従事者」全体の数字で、雇用給与の実態は429万円前後とされます
- 独立開業の年間報酬額平均は約1,146万円ですが、経費を除いた実質所得は約377万円という試算もあります
- 現役登録者の50代以上は約73%を占め、20〜30代の若手はわずか5.2%という高齢化構造です
- 合格者の9割以上が測量士補を先に取得し、午前試験免除ルートを利用しています
土地家屋調査士は、不動産の物理的な状況を登記簿の「表題部」に記録する「表示に関する登記」を独占的に扱える国家資格です。一般消費者からの知名度は高くありませんが、これは業務の多くが不動産会社やハウスメーカーなどとの企業間取引(BtoB)を通じて処理されるためであり、権限の弱さを意味するものではありません。
インターネット上では「土地家屋調査士の平均年収は997万円」といった情報を目にすることがありますが、この数字の出どころを厚生労働省の統計まで遡ると、実態とは異なる前提に基づいていることが分かります。この記事では、公的統計の分類の落とし穴、試験の合格率、独立開業後の収支構造まで、調査資料に基づいて整理します。
結論から言えば、雇われ身分(勤務調査士・補助者)としての年収は400万円台が現実的な水準であり、年収1,000万円規模を目指せるかどうかは独立開業後の営業力と経営体力に左右されます。個々の経歴や地域、顧客基盤によって結果は大きく変わるため、以下で紹介する数値はあくまで公表データに基づく参考値として捉えてください。
土地家屋調査士とは?知られざる独占業務
土地家屋調査士は、不動産の売買や相続、新築といったライフイベントの裏方として動く資格です。宅地建物取引士や司法書士に比べて一般消費者との接点が少ないため、資格そのものの認知度は低いままです。しかし、不動産の物理的状況を登記簿の表題部に記録する「表示に関する登記」は、土地家屋調査士のみに認められた独占業務であり、この分野に限れば代替の効かない専門性を持っています。

試験の合格率は10%前後 難関資格の実態
法務省が公表している土地家屋調査士試験の統計を見ると、受験者数は長期的に減少・膠着傾向にあります。かつて平成19年度には7,540名の申込者がいましたが、近年は申込者数が5,000人台、受験者数は4,000人台まで落ち込んでいます。一方で合格者数は例年400〜500名程度に厳格に絞られており、合格率は一貫して10%前後で推移しています。
| 年度 | 申込者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|---|
| 平成19年度 | 7,540人 | – | 503人 | 6.7% |
| 令和3年度 | 4,733人 | 3,859人 | 404人 | 10.47% |
| 令和4年度 | 4,404人 | 4,404人 | 424人 | 9.62% |
| 令和5年度 | – | 4,429人 | 428人 | 9.66% |
| 令和6年度 | – | 4,589人 | 505人 | 11.00% |
| 令和7年度 | 5,821人 | 4,824人 | 489人 | 10.14% |
(出典:法務省「土地家屋調査士試験の最終結果について」等)
受験者数が減少しても合格者数を一定に保つ運用が続いていることから、試験自体の難易度が緩和される兆候は見られません。

「測量士補ダブル受験」というメタ戦略
土地家屋調査士試験は、測量の技術・計算を問う「午前の部」と、不動産登記法や図面作成能力を問う「午後の部」に分かれています。ただし午前の部は難易度が高いうえ専用の学習教材がほとんど流通していないため、直接受験は非効率とされています。
このため、受験者の大半は測量士・測量士補・一級建築士・二級建築士のいずれかを事前に取得し、午前の部の免除を申請するルートを選びます。なかでも受験資格の制限がなく合格率が約40%と取得しやすい測量士補を、5月の試験で先に取得し、10月の土地家屋調査士試験「午後の部」に集中するスケジュールが一般的です。大手受験指導校の調査でも、合格者の9割以上がこの午前試験免除制度を利用しているとされています。

年収997万円は本当か?統計の読み方
土地家屋調査士の年収を調べると「賃金構造基本統計調査に基づき平均年収878万円」「997万円」といった数字を目にすることがあります。しかし厚生労働省の職種分類を確認すると、土地家屋調査士は「一級建築士」や「測量士」のカテゴリからは除外されており、実際には弁護士・弁理士・司法書士などと共に「法務従事者(職種コード1173)」という包括的な分類に含まれています。
| 統計・調査 | データ定義 | 示される年収水準 | 実態の解釈 |
|---|---|---|---|
| 厚生労働省 賃金構造基本統計調査(令和5年) | 法務従事者(男女計、企業規模計10人以上) | 997万円(男性1030.8万円、女性862.1万円) | 裁判官・弁護士・司法書士等を含む包括分類であり、土地家屋調査士単体の実態ではない(出典:厚生労働省) |
| 求人ボックス(2026年6月更新) | 土地家屋調査士求人正社員平均 | 429万円(ボリュームゾーン358万〜406万円) | 資格を持たない補助者や勤務調査士初期を含む雇用市場の実勢 |
| リーガルジョブボード 業界実態調査(2026年) | アンケート回答者平均(中央値450万円) | 442万8,909円(資格保有者513万4,814円) | 補助者・勤務調査士の実態。経験年数や資格手当で段階的に上昇 |
年収1,000万円前後という数字は「法務従事者」全体の平均であり、他士業の水準に引っ張られている可能性が高いといえます。勤務調査士・補助者としての年収は400万〜600万円程度が現実的で、令和2年国税庁調査による給与所得者の平均433万円と同水準かやや高い程度です。

独立開業の年収とシビアな支出構造
土地家屋調査士が「食える士業」とされる理由は、独立開業後の上限の高さにあります。事務所を構え、ハウスメーカーや司法書士、開発事業者からの案件を継続的に獲得できれば、年収1,000万〜2,000万円を超えることも可能とされています。
ただし、その裏には厳しい支出構造があります。日本土地家屋調査士会連合会の「令和4年度事務所形態及び報酬に関する実態調査」を基礎とした売上データによれば、開業調査士の年間報酬額(総売上)の平均は約1,146万円です。一方、過去の同連合会「所得税申告実態調査」では、年間報酬額1,149万3千円に対し年間経費が772万2千円かかり、実質個人年収(所得)は377万1千円にとどまるという試算も示されています(出典:日本土地家屋調査士会連合会)。
経費がかさむ主な要因は、外注費やトータルステーション・GNSSなどの機材リース代、車両維持費といった高いランニングコストです。加えて、元請けからの入金が数カ月先になる「成功報酬型」の取引サイクルが多いため、案件を受注していても手元の運転資金がショートするリスクが常にあります。開業に際しては、最低半年分以上の運転資金を確保するなど、資金管理の巧拙が経営の生存を左右します。

仕事内容の二面性 内業と外業
土地家屋調査士の実務は、法律家的なデスクワークだけでは完結しません。標準的な業務フローは、法務局での登記簿・地積測量図の収集(内業)、トータルステーションやGNSSを用いたミリ単位の測量(外業)、金属探知機を使った境界標の捜索(外業)、CADによる面積算出・製図(内業)、隣地所有者立ち会いのもとでの境界確定(外業・交渉)という5つの工程を行き来します。
外業には負の側面として、真夏の熱中症リスクやスズメバチ・マダニとの遭遇、藪の刈り払い、冬場の寒冷環境、コンクリートや土砂を掘削する肉体疲労が伴います。体力的な衰えから60代を迎えると業務量をセーブせざるを得ず、年収が下降しやすい傾向も指摘されています。一方で、オフィスに一日中拘束されない働き方や、技術者としての誇りと法律家としての知性を両立できる達成感も、この仕事の魅力とされています。

境界立会で起きる人間関係のトラブル
最も神経をすり減らす工程が「境界立会(筆界確認)」です。境界確定には隣地所有者全員の署名・捺印が必要なため、一人でも合意に応じなければ登記自体がストップしてしまいます。現場では、長年信じてきた境界ラインを巡る感情論、ブロック塀や屋根の数センチの越境物を巡る対立、登記名義人本人は納得していても将来の相続人が捺印を拒むといった、図面や数値だけでは解決できない摩擦がたびたび発生します。
土地家屋調査士は依頼者の代理人ではあっても、依頼者に都合の良い位置へ境界を決めることは法律上認められていません。公図や登記簿、地積測量図といった客観的根拠に基づき、中立的な立場から粘り強く説明し、対立を収束へ導く交渉力が求められます。

なぜAIに代替されないのか
司法書士や行政書士など法律系士業の多くは屋外での測量技術を持たず、逆に測量士や土木技術者は登記法や境界合意形成のノウハウを持ちません。「測量」と「法律」の交差点に位置する土地家屋調査士の職能は、他業界からの新規参入を防ぐ構造的な参入障壁になっています。
この参入障壁は単価の維持にもつながっています。建物表題登記は10万円未満の案件が多い一方、分筆登記や地積更正登記が絡む案件では35万〜70万円、規模の大きな開発案件では100万円を超えるケースもあります。加えて、境界杭を物理的に探し出す現場作業や、隣人同士の感情的な対立を調停するプロセスは、AIのアルゴリズムが不得手とする領域とされ、代替が難しい構造になっています。
また、業界の人口動態も見逃せません。現役登録者のうち50代以上は約73%を占め、20代・30代の若手は約5.2%にとどまります。今後10〜15年で高齢登録者の引退が進むとみられ、ハウスメーカーや司法書士との顧客ネットワークが若手に引き継がれる動きが各地で見られます(出典:日本土地家屋調査士会連合会)。

まとめ
土地家屋調査士は、不動産の表示登記を独占的に扱える国家資格でありながら、一般消費者からの知名度は低い職業です。試験は合格率10%前後の難関で、多くの合格者が測量士補の午前免除ルートを利用しています。年収については、厚生労働省の997万円という数字が「法務従事者」全体の平均であることに注意が必要で、雇われ身分の実態は400万円台が現実的な水準です。独立開業には年収1,000万円超の可能性がある一方、経費や資金繰りのシビアさも伴います。試験制度・年収統計・実務内容のいずれについても、資料の定義や個別の経営状況を踏まえて判断することが重要です。
動画で見る
この記事と同じ調査をもとにした解説動画です。図解を音声で追いたい方はこちらをご覧ください。
よくある質問
土地家屋調査士試験の合格率はどれくらいですか?
例年10%前後で推移しており、令和7年度は10.14%でした。合格者数は400〜500名程度に厳格に制限されています(出典:法務省)。
なぜ測量士補を先に取得する人が多いのですか?
午前の部は難易度が高く専用教材も少ないため、合格率約40%の測量士補を取得して免除を受けるルートが一般的で、合格者の9割以上が利用しているとされます。
年収997万円という数字は実態を表していますか?
これは厚生労働省の「法務従事者」という包括分類の平均で、弁護士や司法書士なども含むため、土地家屋調査士単独の実態を示す数値ではありません。
独立開業すればどれくらい稼げますか?
継続的に案件を獲得できれば年収1,000万円超も可能とされますが、経費や入金サイクルの遅れで資金繰りが厳しくなることもあり、結果は経営状況によって大きく異なります。
次にやること
年収や合格率を把握したら、次は自分の場合の受験コストを具体化する段階です。
- 試験実施団体の公式サイトで、直近の試験日程と受験資格を確認する
- 科目免除の対象になるか(実務経験・他資格の保有)を調べる
- 独学と講座で必要な学習時間がどれだけ変わるか、複数社の資料で比較する
参考にした情報源
うち官公庁・公的機関等の一次資料 6件。数値は各機関の公表時点のものです。
- 土地家屋調査士試験とは? – 東京法経学院(thg.co.jp)
- 土地家屋調査士はやめとけと言われる理由|仕事がない・オワコン・きついって本当?(legal-job-board.com)
- 司法書士・土地家屋調査士に依頼すれば住宅メーカーにリスクない? – 自分で登記.com(jibundetouki.com)
- 土地家屋調査士の廃業率は?廃業率の傾向と仕事の将来性について解説(thg.co.jp)
- 土地家屋調査士 – 職業詳細 | 職業情報提供サイト(job tag) – 厚生労働省(shigoto.mhlw.go.jp)
- 土地家屋調査士試験2026(令和8年)の試験日や申し込み・スケジュールなどを解説 – アガルート(agaroot.jp)
- 令和6年度土地家屋調査士試験の最終結果について(moj.go.jp)
- 令和7年度土地家屋調査士試験の最終結果について(moj.go.jp)
- よくあるご質問 | 土地家屋調査士 |日建学院(ksknet.co.jp)
- 測量士・測量士補からのステップアップ – LEC東京リーガルマインド(lec-jp.com)
- 土地家屋調査士試験の免除とは?測量士補試験合格で「午前の部」を避けるべき理由 – アガルート(agaroot.jp)
- 土地家屋調査士の午前免除資格とは?測量士補で合格を目指す – note(note.com)
- 【2027年版】測量士補を独学1ヶ月で一発合格|土地家屋調査士 午前免除を最短で取る方法(skmblog.com)
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